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今治の空の下で 2 編集長からの手紙

(自分のために書いておきたくて、まだ思い出を書いています。
今治の写真や報告を待っておられる方がおられたら、すみません・・・。
mixiのコミュに簡単ですが先に報告いたしましたので、ご覧ください。)



YJPを卒団し、大学を出て、私は記者になりました。
めまぐるしい日々に忙殺され、心も体も仕事に追いついていかなくなって、
次第に虚ろになっていったとき。
どうしても編集長に会いに行きたくなり、仕事を休んで今治に飛びました。

編集長は私の話を聞かずに、山を持っている友人のところに私を連れて行ってくれました。
里山を健やかに守っていくためには、水の流れと、木々の息吹を見極めなければならない。
下草を取り、枝を払い、山を守っていかねば山は荒れていく一方だ。
そんな話をこんこんと聞かされながら、山道をただひたすら上りました。

山の頂にある、注連縄を巻かれた山の守り神とされている木に手を触れたとき、
なんだか温かい、そう感じました。
思い切って木に抱きついてみると、本当に木が温かかった。
「木」は「気」なのだと、感じた瞬間でした。
虚ろになっていた心に、血が流れていくような気がしました。

その晩、編集長と夕ご飯を食べているとき、編集長に仕事の話をいろいろと尋ねられても、
情報もデータも口をついて出てくることの無い自分がいました。
「おまえ、それじゃだめだよ・・・」と言われたことを思い出します。

編集長としては、いろいろと質問することで、私にもう一度記者として奮起してほしい、
と期待していたのかもしれないのですが、
私にとっては、ある意味、引導を渡してもらった気になったのを覚えています。

その晩はご自宅に泊めてもらい、翌朝、朝ごはんの準備をする奥様を手伝いながら、
奥様が言ってくれた言葉。
「貴女が、幸せになれると思う道を、歩いたらいいと思うわ」

今治から帰京し、ほどなくして、私は別の道を選びました。

新聞の世界を教えてくれた編集長に申し訳なくて、恥ずかしくて、
訪問の御礼の手紙を出したあと、
違う道を選んだという手紙を出せたのは、
記者を辞めてから、1年以上過ぎてからでした。

その後、編集長から頂いた返信です。
編集長の使い慣れた、ワープロ(オアシス)で打たれた文章でした。


『転身は、人の世の常。何ら、恥ずかしいことではありません。』


きっぱりと、温かく、新しい道に向かった私の背中を押してくれたと感じました。
読みながら、涙がぼろぼろぼろぼろ出てきて、声を上げて泣いたのを覚えています。


4年間、二度目の学生生活を終え、作業療法士の国家試験に合格したときの、返信。


『この春、○○○○病院のリハビリテーション科・・・あれから、もう4年、とうとう、そうなったか。』

『・・・これであなたも、ジュニア記者列伝のひとりになるのだ。・・・ジュニア記者諸君は、やるもんだ。』


今治の対岸に故郷を持つ、はむ夫と結婚した時の、返信。


『○○市は、今治市と並んでかつての海域の支配者の地。親しみと因縁を覚えます。
瀬戸内海は古来東西を結ぶわが国の大切なシーレーンですが、南北も、
四国と中国を結ぶ大事なローカル幹線で、そのルートをなぞって”しまなみ街道”が
構築されました。はむ夫さん、お互い、海人の子孫でなければ出来ない話しをしましょう』


はむ夫と二人でしまなみ街道を走り、編集長に会いに行ったとき。


「はむ夫さん。目の前に造船所の建屋が見え、静かな海が広がるという素敵な光景は、瀬戸内海ならではですね。はむさんも、大切な心象風景にしてください」

そう、私たちに語りかけていたことを思い出します。

最後に握手をして、相変わらず分厚いグローブみたいな手だな、と感じました。
そのぬくもりが、私がこの世で編集長に触れた、最後のぬくもりになりました。



はむ夫の持っている心象風景は、編集長の心象風景でもあったのだと、
今回、今治を訪れ、ご遺族とお話しをして知りました。

今治はとても近かったのに、どうしてもっと会いに行かなかったんだろう。

私はこんなにも人生を楽しいと思えるようになったと、どうして伝えられなかったんだろう。

陶芸のこと、合唱のこと、友部の田んぼのこと、ベランダで野菜を育てるようになったこと、ハーブ園でボランティアをするようになったこと、またリハビリに関わる仕事が出来るようになったこと、

たくさん、たくさん楽しいことを編集長に話せばよかった・・・。

そう思うと、いてもたってもいられなくなって、私は今治に向かいました。
by hamu_totoro | 2009-06-10 23:45 | 忘れずにいたいこと


パンやお菓子作り、畑仕事、陶芸、うたの楽しみを綴っています。作業療法士。たまにお仕事(精神障がいの方の支援)の話も。 ※日記に関係のないコメントやトラックバックは 削除させていただきます。


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